映画とか音楽とかについての、ゆるいアートオタクの脳内ストリーミングブログ。
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」と並んで、アカデミー賞最多8部門にノミネートされたコーエン兄弟の「ノーカントリー」は、コーマック・マッカーシーの「血と暴力の国(原題:No Country For Old Men)の脚色です。コカインがらみの殺人現場に残された200万ドルを手にした男、その200万ドルを追う殺し屋、そしてその殺し屋を追う保安官をメインに話が展開していくんですが、いやまあ。

この作品、スリラー/ミステリーを肝に話を据えながら、後半では人間の真理(心理?)をあぶり出していくストーリーテリングは、さすがコーエン兄弟だと言わざるえないんですよ。彼らの書く脚本は、メインの話自体はシンプルだけど、その話の発展のさせ方が素晴らしい。この「ノーカントリー」も、ドキドキハラハラさせるホラー映画ばりのサスペンスシーンをたくさん盛り込んでおいて、最後はそういう締め方をするのか、という作りになっていて、いやー、素晴らしい脚色です。

でもね、あれなんですよ。最初からしっかりと見ておかないと、話の筋が分からなくなる上に、映画の主題を見失いすになります。いや、かといって演出に問題があるのかといえばまったくそういうことではなく、むしろ素晴らしいんですけど、僕が何がいいたいのかというと、コーエン兄弟はオーディエンスがある程度「映画を見慣れてること」を前提に作ってると思うんですよ。

もともとインディペンデントあがりの彼らですし、題材が題材ですからそういう前提になるのも分かりますし、彼らのその前提があったからこそ、「ファーゴ」以来のアカデミー賞があるかもしれません。でもその分、話はシンプルにみえて結構難解で、その上メインの話以外の部分も重要な役割を果たしてますので、いやー、簡単に「素晴らしい作品だ!」と両手を上げて絶賛できる作品ではないわけです。

あれですね、この「ノーカントリー」、劇場を出た後にしばらくその余韻に浸りながらストーリーについて考えて、家に帰ったあとは別のことを始めて、ああ疲れたとベッドに入ったときに初めて「今日見た『ノーカントリー』って映画は素晴らしかったな」と思える作品なんじゃないかな。あとでじわじわくるっていうか。それか「もう一回見ておこうかな」と思い立って劇場に足を運んで、二回目の観賞後に本当に手放しで素晴らしいと思えるっていうのかな。まあ、そんな奥の深い映画。

だから、気晴らしに映画を観に行こうとおもってぱっと行くだけだとこの映画の本筋を理解しかねるかも。それでもメインのストーリーはちゃんとできてるし、殺し屋とドンパチやるシーンなんて凄い緊張感でかなりのエンターテイメントになってるから、そういう映画としてみても楽しめるんだけどね。ただ、それだとこの映画がなんでアカデミー賞最多ノミネートになるのか理解しづらいかも。

なんてことを言いながら、僕も全部は理解できてないんで、もう一回観に行こうと思います。なんかただ券もらったし。あ、それと撮影監督のロジャー・ディーキンス相変わらず凄かったです。やっぱ彼の撮る映画は美しいねー。

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16歳の女の子が妊娠! 似たような話があったような、と思えば最近日本で「14歳の母」なんてドラマがやってましたね。「14歳の母」は、中学生が妊娠という衝撃的で過酷な境遇に焦点を集めていましたが、この「ジュノ」は、まあ14歳と16歳の違いがあるにせよ、「14歳の母」とは180度違う、ある意味アメリカらしいといえばアメリカらしいやり方でヒューマン・コメディーにしちゃったのです。

突然の妊娠にも決して動じず、中絶を拒否し出産することを望んだジュノ。出産する子供を養子として引き取ってもらえる夫婦を自分自身で見つけ出す行動力の強い彼女ですが、やっぱりそこは16歳。家族、友達、そしてジュノのお腹の中にいる子供の父親である同級生のブリーカー。周りの人を巻き込んで成長していくジュノの様子は、可笑しいながらもどこか感動する、まあそんな話。

この映画、公開当初はミニシアター系お決まりの「Limited Release」で、米国内でわずか8館で始まったんですが、ちょっと前に「スーパーバッド」で売れたマイケル・セラが出ていることに加え、相当数のファンを抱えつつ打ち切りになってしまった「Arrested Development」というテレビ番組でマイケル・セラと親子役を演じていたジェイソン・ベイトマンが数年ぶりに競演するとあって、拡大上映を楽しみにするファンが結構いました。ちなみに僕もその一人でした。そして、公開されるやあれよあれよと口コミ等で火がつき、気がつけばボックスオフィスで上位にランクインし、さらにアカデミー賞に作品賞、脚本賞、主演女優賞でノミネートされるなど、制作費約800万ドルの映画にしては大躍進を遂げています。

メインの焦点はジュノの妊娠と出産ですが、彼女と彼女の子供を養子としてもらうことになった夫妻のジェイソン・ベイトマン演じる夫との関係もまたアメリカらしい。妻と養子とジュノと自身の将来について揺れる男の役を、ベイトマンは見事に演じてます。あのアンバランスさというか、絶妙の「違和感」がこの映画の隠し味になってるかもしれませんね。その違和感の正体を見たい人は是非劇場へ。(あれ、結局は宣伝になるのかい?)

あれですね。こういう話って、どこか一歩間違えると陳腐で安っぽくなっちゃうものですけど、そこはさすが「サンキュー・フォー・スモーキング」のジェイソン・ライトマン。劇中にちりばめられたディテールが、独特の世界観を作り出してます。地味といえば地味だけど、まあそういう脚本だしね!

日本では初夏公開予定だとか。とりあえず、アカデミー賞に期待? とれるとしたら脚本賞かな、本命の二作は脚色だしね。

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ゴールデングローブ賞などの各映画賞の受賞作品が発表され、オスカー戦線が熾烈を極める中、全米映画批評家協会賞で作品賞を受賞したのがポール・トーマス・アンダーソンの「There Will Be Blood」 原作はアプトン・シンクレアの小説「オイル!」で、20世紀初頭に名をはせた石油採掘実業家の一代記。主演は「ギャング・オブ・ニューヨーク」のダニエル・デイ=ルイス

ポール・トーマス・アンダーソンといえば1999年の「マグノリア」でベルリン映画祭金熊賞、続く2002年の「パンチドランク・ラブ」でカンヌ映画祭監督賞を受賞している、まあいってみれば「批評家受けする監督」みたいな感じ。今回の作品もなかなかアクが強い、批評家受けしそうな映画なことは確かかな。

しかし! だからといって本編が退屈なんてことはまったくなく、むしろ映画史に残る名作といっちゃっても過言ではなんじゃなかろうか。それぐらいの大作。期待していいよ。

ダニエル・デイ=ルイス演じる石油採掘家のダニエル・プレインビューの元に、ある日ポール・サンデイと名乗る男がやってくる。ポールはダニエルに石油が地面から湧き出ている場所のことを教えるかわりに、大金を要求した。ダニエルはポールの要求を認め、サンデイ家を訪れる。サンデイ家の敷地内から石油が湧き出ているのを見つけたダニエルは、さっそく採掘所を建設するための土地を譲ってもらおうとサンデイ家と交渉する。その交渉の場で、流されるままの父親を見かねたポールの弟イーライ・サンデイは、採掘所の建設を許すかわりに、大金を要求する。さらに、信仰の深いクリスチャンのイーライは、農場以外なにもない村に教会を建設することを条件の一つとする。ダニエルは渋るが、石油のためとこれを了承する。これが、ダニエル、彼の息子HW、そしてイーライの人生を大きく変えていくこととなる。

実業家の成功と破滅を描いた作品っていうのはなかなかに少なくないけど、この「There Will Be Blood」はただそれだけでは終わらない。これは親と子の話でもあって、宗教衝突の話でもあって、復讐の話でもあって、まあなんていうかあれだよ、デイ=ルイスの演技はまさにアカデミー賞に値するっていうか、まさに怪演と言わざる得ない迫力なんですよ。ストーリーテリングは基本的にダニエル・プレインビューの人生をなぞってるだけであって、ストーリーを引っ張ってるのは紛れもなく彼。あと、「リトル・ミス・サンシャイン」で無口な兄役を演じてたポール・ダノ演じるイーライのクレイジーな宗教家っぷりもなかなか不気味で、「リトル・ミス・サンシャイン」大好きな僕(DVD何十回と観てます)としては嬉しいかぎりですね。

しかし、監督のポール・トーマス・アンダーソン、やってくれます。石油やら宗教やらって、それは現在のアメリカに対する当てつけなのか。しかも、大統領選挙を控えたこの時期の公開とあっては、さすがに狙ってるとしか思えませんよね。

劇中は観てるこっちとしても緊張の連続なわけで、観終わったあとの充実感がとにかく凄かった。特にラスト30分は、クライマックスのあとにクライマックスのあとにクライマックスがある感じで。2時間半と短くない映画だから、出来ればスタジアムシートの映画感でじっくりと味わって観るのがいいんじゃないかなーと思います。あ、あと撮影班志望の僕としては、撮影監督のロバート・エルスウィットの功績も賛えたいです。今年は「ジェシー・ジェームスの暗殺」か「ノーカントリー」でロジャー・ディーキンスがアカデミー撮影賞取るんじゃないかなーって思ってたんだけど、いや、エルスウィットが取るかもやしれませんね。

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予想通り、先ほど行われた選考会で、桜庭一樹の「私の男」が直木賞に選ばれたみたいなんですけど、先日書店は行ったとき同書の方が売り切れで、かわりに「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」と「少女には向かない職業」を買ったんですよ。

桜庭女史(一樹っていうPNだけど女性ですよ)については2、3日前のエントリーで書いたんで特筆することはないんですけど、この作品、重い。単行本版の方のカバーは割と味気ない感じなんですけど、文庫本はまあライトノベルということもあってかわいらしい女の子2人のイラストのカバーなんですよ。そんなカバーなのに内容の方はかなり痛々しいんで、軽い気持ちで読み始めると1ページ目から目くらましを食らいます。

主人公、山田なぎさは大人として戦うための「実弾」(=生活力)を求めて卒業後に自衛隊に入ることを望む中学生。そのなぎさのクラスに転校して来た海野藻屑は初日に自分のことを「人魚だ」と紹介し話題を集める。実は、彼女は一昔前に流行った二枚目タレントだった。なぎさは、ささいなことから藻屑と関わりを持つようになり、クラスの男子と3人で映画を観に行くことになる。すると、次第に藻屑の家庭の事情が明らかになる。「砂糖菓子の弾丸」しか撃つことができない子供達が抱える問題、未来への不安、そしてそんな状況に逆らいたくても逆らえない葛藤が、悲劇を生む。あらすじを起こすとこんな感じになるといえばなるかな。

ジャンルでいえばミステリーになるのかもしれないが、どちらかといえば「キャッチャーイン・ザ・ライ」のような青春小説と読んだ方がいいかな。でも、子供達にかぎっただけの話ではなくて、周囲の大人や、大人になれなかった人々の話でもあったりする。

文学賞っていうのはあくまで目印になるだけで、特に直木賞とか芥川賞なんかは特定の雑誌に掲載された作品の中から審査員によって選ばれた賞だ、とかよく批判される対象になる。この「砂糖菓子」も、ライトノベルとしてではなく普通の単行本として初版が出ていたら、多分その辺の文学賞の一つや二つ取っていたんじゃないかなと思うし、今回の「私の男」の受賞はまさにその証明ですね。これからも女史の作品には期待したい。

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先日話題に出た桜庭一樹の「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」を読み終わったので、それについて書こうかななんて思ってたんですけど、連れが誘ってくれた野田秀樹の戯曲「キル」の舞台が思いのほか素晴らしかったので今日はそっちについて書くことにしました。

渋谷文化村シアターコクーンにて行われた今回の公演は、「キル」の再々公演で、初演は94年、再演は97年。キャスト一新で主役には妻夫木聡と広末涼子、そしてそれを支えるのは勝村政信や高田聖子といった豪華なメンバー。演出家の野田秀樹も役者として舞台に出ていて、なかなかに重要な役を演じています。

僕は、ブロードウェイのミュージカルとかは結構好きで、過去に「オペラ座の怪人」や「ムーヴィン・アウト」、そして「ライオン・キング」なんかを観に行ってるんですけど、日本人演出家が手がけた舞台といえば、浅利慶太氏が日本語版の監修/演出をした劇団四季版「ライオン・キング」ぐらいしかありません。しかも、それもブロードウェイで演出を手がけたジュリー・テイモアのコピーにすぎないわけで、完全オリジナルの日本人演出の舞台は、この野田秀樹の「キル」が僕にとって初めてになるのです。そんなわけで、初めての野田秀樹、初めての小劇場系とあって、なかなかドキドキワクワクしながら文化村まで足を運びました。

で、素人の感想ではありますが、一言。


野田秀樹すげええええええええ。



いや、まいった。まさか舞台でここまでの感動を覚えるとは思わなかった。初めてでこれだけの作品を観れたことは、かなりの幸運ですよ!

と、野田秀樹を褒めちぎる前に、少し気になったところから書いていきますか。

主演の妻夫木広末ですが、まあ公演も始まって一ヶ月経ちまして疲れがたまってるのかもしれないんですが、全体的に少し線が細いかなぁという印象。いや、演技自体の存在感はなかなかのものなんですよ。それにほら、まだ若いですし、そんなに舞台慣れしてないっていうのもあると思うんですよね。妻夫木の方は、若いなりの力強さがあって、それが役ともマッチしていて、特に最後のシーンなんかではなかなかの演技を見せてくれましたが、逆に広末の方は声が少し細くて全体的に軽い印象を与えてしまったのが残念。まあ、それでも後半の方はノッてきたのか調子が出てきてはいましたけどね。場数を踏んでいけば舞台女優としても活躍できるかもしれません。でも声質がなぁ。。。

とまあ、苦言はこの辺にしておきますか。

さて、一回観ただけの僕ですけど、野田秀樹の素晴らしさは「言葉遊び」にあると思うんです。この戯曲の題名「キル」一つをとっても様々な意味合いがあって、さらにそこからどんどんと言葉遊びを広げていって、壮大な野田ワールドとも呼べる世界観を作り上げる力がある、それが野田秀樹の魅力の一つかな。あと、舞台装置もよかった。ステージの限られたスペースでモンゴルの大草原を表現する為の様々な工夫と演出には舌を巻かざるえない!

ストーリーは独創的で、細部を詰めて練られたものというよりは、わざと曖昧さを残してその隙間を観客に埋めてもらうという感じになっている印象を受けました。観る人によってはそこが抽象的で分かりにくいなんて思うかもしれませんが、そこがまた彼の戯曲のいいところなんじゃないかな。別につじつまが合わなくたっていいじゃない。壮大性は創作の武器ですよ。

あと特筆すべきところといえば勝村氏の好演かなぁ。事実上彼が舞台を引っ張っているといっても過言ではない、といえるぐらいの存在感でした。

本当に観に行ってよかったと思えるものは、映画にしてもコンサートにしても舞台にしてもそう滅多に出会えるものではないのですが、そうであるがゆえに、出会えたときの感動と興奮というのは言葉にしがたいものがありますよね。「キル」は僕にとってそういった作品の一つであることは確かで、またこの作品を観たことで、僕は別の劇団の舞台も観覧してみたいな、なんて思ってます。皆さんも機会があれば是非、劇場に足を運んでみてはいかがですかね。

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